皆さんは疥癬（かいせん）症という病名を聞いたことがありますか？
この疾患は、ヒゼンダニというダニの一種に寄生されることで発症する皮膚病で、人間や犬、猫にも感染する厄介な寄生虫です。

ワンちゃんにかかりやすい寄生虫による皮膚病の中で、ノミやマダニは予防薬で感染リスクを回避できますが、ヒゼンダニの予防薬は、残念ながらありません。
激しいかゆみを伴うこの疥癬（かいせん）症という皮膚病。原因や症状、治療や予防法など、詳しくご説明します。

犬の疥癬（かいせん）症

犬の疥癬（かいせん）症とは、ヒゼンダニというダニの一種に寄生されることによって起こる皮膚疾患です。

◎原因

ヒゼンダニに寄生されている動物との接触が原因です。ヒゼンダニは宿主から離れると、しばらくして死にますが、寄生されている犬が身震いしたり、体をかくだけで飛散します。
感染力が非常に高い寄生虫なので、ドッグランやペットホテルなど、不特定多数のワンちゃんが集まる場所は、注意が必要です。

ヒゼンダニは寄生した動物の皮膚に穴をほり、そこで産卵します。
成虫でも0.2〜0.4mmと肉眼で確認できないほど小さく、皮膚の穴に隠れているため、動物病院の検査でも20〜50％程度の検出率とされています。

◎症状

初期症状は皮膚に赤いポツポツが出る程度。ヒゼンダニの数と生息範囲が広がるにつれ、強いかゆみが起こり、ワンちゃんは患部を激しく掻くようになります。
掻き傷から炎症や脱毛、フケやかさぶた、ジュクジュクの膿がたまるなど、皮膚疾患が重症化していきます。

症状があらわれやすい部位は、耳の周辺や顔、肘や膝、お腹など。
慢性化、重症化した場合は、リンパ節が腫れたり、発熱、体重減少などの症状も併発します。

◎治療法

疥癬（かいせん）確定診断は、皮膚の一部を削り、顕微鏡でヒゼンダニを検出する皮膚掻把（そうは）検査を実施しますが、前にも述べたように確認は容易ではありません。
アレルギー性皮膚疾患を併発するケースも多く、診断が難しいのが現実です。

疥癬（かいせん）の疑いがある場合は、ヒゼンダニの効果があるセラメクチンやイベルメクチンなどの駆虫薬を使用します。
虫卵には効果がないため、完全に排除するためには、複数回にわたる投与が一般的です。

人や他の動物にも感染する

疥癬は人畜共通感染症の1つで、人にも他の動物にもうつります。つまり、飼い主さんや同居するワンちゃんやネコちゃんにも感染する可能性があるということ。
人にも強いかゆみを引き起こすので、かゆみを感じたら、迅速に皮膚科を受診してください。

また、ワンちゃんの多頭飼いや同居猫などがいる場合は、高確率で感染が疑われるため、一斉に治療を行う必要があります。

コリー系の品種は要注意

コリーやボーダーコリー、シェットランドシープドッグ、シェパードなど、コリー系の品種は、MDR1遺伝子の変異が多いことで知られています。
ヒゼンダニの駆虫薬として使用されるイベルメクチンを、MDR1遺伝子が変異した個体に使用すると、運動失調や意識障害、呼吸低下、昏睡などの副反応が生じることがあります。

イベルメクチンはフェラリア症の予防薬としても使われていますが、この場合はごく少量。疥癬を治療するためには投与量が大幅に増えます。
コリー系品種のワンちゃんが疥癬に罹患してしまったら、使用薬剤などをしっかり獣医師に確認しておきましょう。

疥癬（かいせん）の予防は？

疥癬症のワクチンは存在しないので、ヒゼンダニの寄生を防ぐことが唯一の予防法になります。
しかし、感染した犬を見分ける手段はなく、猫や野生動物に寄生している可能性も否定できません。
「怖いから、お散歩やドッグランに連れて行かない」というのもムリな話しですよね。

できることと言えば、抵抗力が低いと一気に重症化するリスクが高まるため、日頃の健康管理に気を配ることも大切。
また、疥癬との区別をするため、日常的にノミ・ダニの駆除をしっかり行っておきましょう。
何より、体をかゆがるなど、ワンちゃんの異変にいち早く気づけるように、しっかりと見守ってあげてください。

アニモ動物クリニック